中田延亮先生のお言葉

ブログ 2021年4月1日

2021年3月13日に学習院大学富士見ホールにて、管弦楽団第60回定期演奏会に向けての全奏を行いました。

先生をお呼びしての全奏は初めてで、部員一同楽しく、とても有意義な時間を過ごすことができました。
先の見えない状況下で、私たちが今できること、また気の持ち方について、素敵なお話を聞かせてくださいました。

中田延亮先生のお言葉をご紹介します。


二つ、今回全体に亘って言いたいことがあります。

一個は、こういう状況で我々演奏会を行うのは、学生オーケストラの歴史始まって以来だと思うんですよ。太平洋戦争の頃、もしここのオーケストラがあったんだったら、やれるかやれないかみたいなことはあったのかもしれないけど、ひょっとしたらそれよりも厄介で予想ができない状況の中で、我々はとにかく今集まって演奏会をやろうとしている。

色々不安な状況があると思います。学校のことも色々大変だと思うんですけど、僕がこうやってのこのこ今日の練習に来てやってはいながら、皆さんもどっかで「ひょっとして今回演奏会ができないんじゃないかな、だって合宿もできないみたいな感じになっちゃって。」ということをちょっと不安に思いながらやっているんだと思います。

その状況って、我々の心がけとか、我々の日常の努力ではどうしようもできない部分ってあるじゃないですか。神様とかいろんな幸運が微笑んでくれれば我々は無事に演奏会ができるんだと思うし、本当にそうあってほしいと思っている。だけどもし、いろんな状況が僕らの願いとは裏腹に色々悪い方に悪い方に転がって行ってしまって、演奏会ができなくなってしまう、っていうことってありえるんだよね。それってすごい残念なことだけど、でも、その中でも、僕らがこの曲を今回取り組んでいるってことを「やって良かったな」って思えるようにしたいなと思っています。

というのは、僕この曲を演奏会にかけるのはもう、これで何回目かも分からないし、自分が初めてオーケストラの中で自分が楽器を演奏しながらやったっていうのは、もう何十年も前ぐらいの感じだから、始めて譜面を見たときからすごい長い付き合いになるんだけど、それでもやるたびに、「あ、前の時よりはおれはよくわかるようになったな」みたいな感じに思うことがあるんですよ。だから、たとえ皆さんがこの演奏会が無事にできたとしても、できなかったとしても、結局、次にまたいつかやるときに「あ、やっぱりもうちょっとわかるようになったな」っていう、こういう状態[1]の中の、皆さんなりの今の地点からの過程の中のどこかなんだと思うんです。演奏会ができればそれに越したことはない。だけど、できなくても、今ある状態から「もう少しわかるようになったな。オーケストラとしてもう少しちょっとできるようになったな」っていうことを、何回練習しても続けていくしかないと思うんですよね。

だから、例えば僕が練習来てない間に色々起きて「じゃあ今回中止になりました」ってなったら、一回一回の練習で「じゃあまたね」とか言いながら、その「またね」が無いかもしれない。だから、この練習が僕がここに来られる最後だったとしても、今日始めたときよりも良くして、なんかちょっとハッピーになって帰りたいなっていう風に思っています。それは皆さんと一緒にそういう事が出来れば嬉しいなって思うし、こういう状況の中でもこうやってわざわざ危険をかいくぐって、こうやって集ってることに何か我々に報いがあるといいなって心から思っています。

皆さんも、色々体調お気を付けて。色々大変だと思うけど何かこの中でも見つけられる、音楽っていうのが自分の傍らにあるっていうことがやっぱり大切だと思えるような機会になればいいなって思ってます。
これが一つ。


  1. 先生がジェスチャーで右上がりの直線を示す ↩︎

あともう一個。すごい実際的な話なんですけど、楽譜って見やすいと良いと思います。富士見ホールのような照明だと、人によってははものすごく見づらいし、うちで練習している時と、オーケストラで座ってちゃんと楽器を構えている時とでは距離感が案外違うじゃないですか。芸劇に行ったらまたちょっと見やすさ変わったりするんですよ。で、見やすくなるっていう時ももちろんありますけど、不幸なことに座った席によって見にくくなることだってある。だから、譜面が見にくいってことで自分の恐怖を増やす必要は全然ないじゃないですか。例えばあそこのコントラバスの人たちは全然違うサイズの譜面を使っているけど、あれができるっていうことは物理的に工夫するとできるんだよね、多分。だから、手間はちょっとかかるし、時間もかかっちゃうんだけど、あともう少し大きくする譜面を持っておく。たしかに持ち運びめんどくさいんだけど、練習の場で困ったり、本番でちょっと「あ、見えない」って変な音を出しちゃった、みたいな感じの悔しい思いにつながらないように、上手くいいサイズっていうのを探してみてください。

世界の中でもこうやって学生のオーケストラが活動できてるってことはすごく稀なことだから、コロナ禍でやれてる幸運を僕らが最大限に味わうためには、あとひと手間あってもいい。あってもいい、別にやらなきゃいけないってわけじゃもちろんないけど、みんな眼がいいから僕よりも。老眼が始まってない皆さんなら見えると思うんだけど(笑)、それでも見やすい譜面を。
これが二つ目。

オーケストラをやっていて、1人1人は個人的に練習してた時間はあったと思うんです。ただ、合奏するといろんな不具合が出てくる。これオーケストラの難しいところですよね。今これからもこうやって集って練習できることってすごく貴重で、なかなかそんなにできないとなったときに、まず自分が練習するっていう個人練習のほかに、スコアを眺めて自分のパート以外の楽器の音をなるべく数多く耳に入れるように勉強してみてください。これはもう楽器を脇に置いて、なんだったらCDを聞きながらでも全然いいし、ピアノでその楽譜を弾ける人はそれでいい。なんでもいい、どんな手段でもいいから、自分のパートと違うパートを、皆さんが演奏している曲を、できるだけ多く知っておく。感じるようにしておく。演奏しながら、少しでも多くの楽器が自分の耳に入る状況っていうのを作ってみてください。本当だったらオーケストラの中で練習しながら、音に囲まれながらやれることなんだけど、そういう機会が少ないんだとしたら、僕らはそうやってそれを補った方が良いと思う。そうすることによって、ただただ一人で闇雲に「トットットットットン、トットットットットン、トトンットトン、トトンットトーン、トンットトン」とかってやるだけじゃなくて、この曲にもう少し深く入れると思うので。

今回やるこの楽譜って僕初めて使う楽譜なんですけど、すごく良い、すごく良い楽譜だと思います。これはオーケストラに提案されたんですけどすごく良い楽譜なので、僕これから一生これを使っていこうと思うっていうぐらい気に入っています。皆さんもできればスコアを眺めて「あ、ここんとこおれの音より、こいつでかい音で吹かなきゃいけない」とかそういう細かい事でもいいし、細かい事が楽しい。色々探して見つけてください。

「頭からいきましょう!」


管弦楽団第60回定期演奏会
2021年5月30(日)14時開演。東京芸術劇場コンサートホール。指揮:中田延亮。ドヴォルザーク/交響曲第8番ほか。The 60th Regular Concert of Gakushuin Music Society Orchestra.

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