創部100周年記念 第66回定期演奏会 選曲インタビュー

ブログ 2022年11月3日

今回は、2022年11月6日に開催される、創部100周年記念 学習院輔仁会音楽部 第66回定期演奏会で演奏されます3曲について、当団の楽事委員長(兼 管弦楽団が学生指揮者)トロンボーン3年本田 千遥と混声合唱団学生指揮者アルト3年間庭 小百合の二人に部報委員長チェロ3年岡本茉子からインタビューをしました!
前曲・中曲は楽事委員長に、そしてメイン曲から混声合唱団学生指揮者も加え、色々なことを話しました。
 皆様どうぞ、最後まで楽しくお読みください。

スペイン

岡本:まず最初に、オーケストラで演奏する『スペイン』と『ローマの松』について、楽事委員長の本田千遥さんにインタビューしたいと思います。

本田:『ローマの松』はレスピーギによって作曲されたローマ三部作のうちの一つであり、今回のプログラムの中でも一番知られている曲なのではないでしょうか。金管楽器のバンダなど、演奏者の数もとても多く、迫力のある演奏をお楽しみいただけると思います。

岡本:ありがとうございます。続いて『スペイン』を選曲した経緯について聞きたいと思います。

本田:はい、シャブリエは、役人という立派なキャリアを歩んでいた人物から作曲家に転身しました。『スペイン』は作曲家人生において、一番成功した作品とも言われていて、“シャブリエといえば『スペイン』、『スペイン』といえばシャブリエ”というような印象だと思います。今回のメイン曲『レクイエム』と対比し、前中曲は比較的派手な曲を選んでみました。

岡本:なるほど、では『レクイエム』の方が先に決まったという感じですね。

本田:そうですね、演奏会は毎回、一番大きい曲を決めてから、前中プログラムを決定しています。100周年の華やかな演奏会の一曲目は陽気な『スペイン』のリズムで幕を開けます。

岡本:リズムとか、凄く特徴的ですよね...。

ローマの松

岡本:『レクイエム』とは反対に、明るい曲を前中で選んだということで、『スペイン』と『ローマの松』を選んだということなのですけれど、『ローマの松』はどういう経緯で選曲しましたか?

本田:はい、『ローマの松』は、部員からもやってみたいという声が多かったように感じます。100周年記念の演奏会という観点からプログラム構成を意識しつつ、自分たちがやりたいと思う曲も選びたいと思い、今回『ローマの松』になりました。『ローマの松』は、各楽器のソロや華やかなバンダの演奏などもあったり、一度は演奏してみたいと誰もが思うのではないでしょうか。やはり100周年ということもあって、豪華なフィナーレ、華やかなファンファーレを演奏したいと思い、この曲を選びました。

岡本:確かに『ローマの松』って、第一曲とか凄く華やかだし、バンダのトランペットとか結構目立って、派手な曲ですよね。でも、第二曲のカタコンベの松は、最初は低弦がメインで弾いているんですけれど、お墓に入っていくイメージで演奏してくださいと三石先生にご指示をいただきました.....。

本田:カタコンベというのは、迫害を受けたキリスト教徒が祈りの場として使用していた地下の墓地のことを指します。前の合奏でも第一曲の“ボルゲーゼ荘の松”では、芝生の上で子供たちが遊んでいる楽しそうな雰囲気、そして急に曲の雰囲気が変わり、第二曲の“カタコンベの松”で墓地が舞台となり暗い和音と、念仏の響きが演奏されます。実はこの第二曲のカタコンベの松の中には、グレゴリオ聖歌のサンクトゥスが入っています。実は、後で説明する『レクイエム』にも通じる点があるのです。

岡本:そうですよね、迫害されたキリスト教徒のお墓と聞いた時に、『ローマの松』と『レクイエム』は、双方の曲自体には直接的な関係はないと思うのですけれど、死者の魂に祈るという点で、偶然にも、非常に通じている選曲だなと思いました。

本田:本当に偶然ですよね(笑)。急に厳かな雰囲気になって、神秘的な感覚が広がるというのは、とても見どころですね。あと、中盤から念仏のように鳴るメロディーがあるのですけれど、これも『レクイエム』に通じる部分があるように感じます。

岡本:第三曲の“ジャニコロの松”は、冒頭で弦楽器がニュアンスとして少し揺れ動く所があるのですけれど、ここは木が揺れている情景をイメージして演奏していますよね。

本田:そうですね、最初は弦楽器が松の揺れる様ですね。また、最後は満月の夜に、松に佇むナイチンゲールの声が演奏されます、実はバードコールという楽器で音を出していて、なんと本当に鳥が鳴いているかのような空間を演出しています。

岡本:よくレコードで鳥の声を演出するオケもありますけれど、今回は...。

本田:そうなんです、舞台からバードコールや鳥笛などを使って、その空間ごと演出しています。

岡本:ここも見どころの一つですよね。

本田:はい。最後、第四曲は『ローマの松』最大の盛り上がりといっても過言ではない”アッピア街道の松”です。このアッピア街道というのは、なんと560キロにも及ぶ進軍道路のことを指していて、現存する街道の中でも最も有名なものなんですよね。

岡本:そんなに長いのですね!

本田:この曲は低音楽器がテンポ良く軍隊の行進を表していて、敵か味方か不明な軍が近づくことへの不安に包まれている人々の心情を表しています。明るい和音へだんだんと変化し、最後のフィナーレでは、輝かしい曲の最後を迎えます。

岡本:確か、軍隊が遠くから行進してくる時は、アッピア街道には霧がかかっていたんでしたっけ。

本田:はい、遠くから軍隊が来るけれど、霧がかかっていて敵か味方か分からないという状況を不協和音で表しているんです。更に、悲哀の念に満ちた奴隷の悲痛な声も聞こえてきて、霧が晴れてくると同時に、進軍してくる軍隊は、曲が展開されるにつれ、帰還する自国のローマ軍であることが判明し、終盤の凱旋パレードに繋がります。私たちはローマ帝国時代を知らないですが、ローマ帝国の栄光を知ることのできる、とても素晴らしい曲のようですよね。

岡本:霧と聞いた時に、第三曲が月の出た夜の情景を表していたということから、第四曲は朝靄が出ている情景から始まっていると想像したんですよ。そして、軍隊が遠くから近づくにつれて霧が晴れていくのだと想像したら、非常に流れのある曲だなとも考えられますね。

本田:まさにそうですね。あと、プログラムの構成で言うと、前曲の『スペイン』から中曲の『ローマの松』に移り変わる様は、まるでスペインからイタリアへと旅行しているような気分になれますよ。

岡本:それはいいですね。旅行もしているし、『ローマの松』ではローマ帝国の情景も浮かび上がってくるから、古今東西を、網羅しているという感じですね(笑)。それに、“全ての道はローマに通ず”という言葉がありますから、歴史の集大成みたいな雰囲気があって、100周年を飾るには相応しいですね。

本田:是非、迫力のある演奏をするので、楽しみにしていてください。

レクイエム

岡本:では次に、今回の秋の演奏会のメイン曲であるデュリュフレの『レクイエム』について、混声合唱団学生指揮者の間庭小百合さんを加えて、インタビューしたいと思います。

間庭:よろしくお願いします。

本田:間庭さんはこの曲知っていましたか?

間庭:いえ、私にとっては候補に上がった段階で初めて聴いた作品でした。凄く美しい曲だなというのが第一印象です。

本田:あまり知られていない分、学習院ならではという感じもありますよね。

岡本:デュリュフレの『レクイエム』って、過去に何度か学習院で演奏されていますし、日本での初演も実は学   習院という点では、非常に学習院らしさのある曲ですよね。

本田:はい、更に、今回音楽部でこの『レクイエム』を演奏するのは五回目なのですが、その内三回は三石先生に振っていただいていることになります。

岡本:デュリュフレの『レクイエム』って、そんなにも学習院輔仁会音楽部と密接な関係にある曲なんですね...

本田:そのような関係から、『レクイエム』は候補として最後まで残っていて、最後、部員投票でこの曲に決定しました。

岡本:私が投票のためにこの『レクイエム』を聴いた時は、絶対にこの曲を演奏したいなと思いました(笑)
確かデュリュフレは大学で和声を教えている方だったんですよね。だから、『レクイエム』の音源を聴いた時、和音が綺麗だなと思って。

本田:デュリュフレは、生涯で多くは曲を残していませんが、『レクイエム』を作曲し、宗教音楽作曲家としての地位を確立したと言われています。デュリュフレは作曲家として自体はあまり知られていないということもあり、なかなか資料が残されていないので、曲目解説を執筆するのも苦労しました。この曲は昨年演奏した、ベートーヴェンの第九(※1)とは異なり、合唱がずっとある事が特徴的だと思います。
では、合唱の指揮者の間庭さんから、何かこの曲のポイントとかがあればお願いします。

間庭:そうですね、グレゴリオ聖歌の伝統的な旋律が取り入れられている箇所も多くあり、その主題を様々なパートで担いながら進んでいく点が、この作品の特徴の一つではないかと思います。

本田:なるほど。オーケストラとしては、弦楽器がずっと大活躍で...。

岡本:ヴィオラが結構活躍していますよね。

本田:そう、ヴィオラがベースの役割をしていて、ずっと色んな細かいところを演奏していて。第五曲の“慈悲深いイエスよ(Pie Jesu)”にチェロのソロがあるのもかなり見どころですよね。

岡本:本当にそうですね!

本田:この曲は美しい音色でとても洗練されていて、ずっと静かなシーンが続くかと思いきや、突如として全体合奏となり大音量に包まれるなど、他の曲とは異なる点があります。静寂な演奏部分と盛り上がる演奏部分の対比、その中でも一貫して祈りを捧げているというのが熱くなるところですね。

岡本:ミサ曲だから、もっとパターン化されていて、それこそ『ローマの松』で登場したカタコンベのお墓のシーンに登場したお経みたいに、淡々とした曲かと思いきや、デュリュフレの『レクイエム』の旋律や和音は結構耳に残りやすくて、色々な感情がこみあげてくるというか...。

本田:曲の変化があって聴いていて飽きないですし、多分聞いたことのないお客様の方が多いと思うので、初めて聴く曲として楽しんでいただけると思います。それに、知らない曲を演奏するからこそ、弾ききった時の達成感は大きいと感じます。

岡本:毎回練習する度に綺麗な曲だなって思いながら聴いています(笑)。あと、感情がこみあげてくるという点では、個人的に “われを解き放ち給え(Libera me)”の第八曲が...。

間庭:第八曲は、他の『レクイエム』では“怒りの日(Dies iræ)”に相当する部分が含まれています。曲調の変化が印象的ですよね。

岡本:ええ、バリトンソリストが歌い終わった後、弦が激しく弾いて、合唱が歌い始める部分があるんですけれど、よく三石先生は”怒りの感情をもって演奏して”とおっしゃるので、地獄の激しい業火が吹きあがっているようなワンシーンを私なんかは思い浮かべるんですね。でもその後、合唱が、まるで空の雲が晴れ渡ったみたいに、非常に明るい曲調で歌うシーンがあって...。

間庭:合唱が全パートで”その日は怒りの日 災いと苦悩の日(Dies illa, dies iræ)”と歌った後、ソプラノパートソロの”永遠の安息を彼らに与えたまえ、主よ(Requiem æternam dona eis, Domine)”に移る部分でしょうか。

岡本:そうですね!なんというか、その部分って、歌詞に表されている感情の揺れが、曲調に非常に分かりやすく現れているなって感じます。

本田:あと、私は『レクイエム』を演奏するのは初めてなのですが、『レクイエム』だから感じることとしては、死者の魂のために祈る曲なので、今回音楽を通して改めて死に向き合い、学びの多い期間となりました。芸術でそのような面に触れられることの興味深さも得られました。

岡本:確かに、音楽で死について考えるとか、ないですものね。春に演奏した『オルガン付き』(※2)では、“オルガンとオケの共演”という点が取り上げられるポイントであって、『オルガン付き』の曲そのものになんらかの物語がある訳ではなかったけれど、『レクイエム』はミサの典礼文に音楽をつけているので、物語に音楽がつくのって、結構映画的ですよね。それに、ストーリーがあると、表現するためにストーリーの意味を考えながら演奏するから、より理解するために『レクイエム』について勉強しましたよね。

本田:宗教音楽は容易に踏み込めない領域であり、解釈の違いが生じる難しいものであると思います。だからこそ、そこは観客の皆様がこの音楽から何を感じるのか、解釈を委ねて、是非聴いていただきたいと思います。

岡本:100周年という記念すべき年に、『レクイエム』という死者の魂のために祈る曲を演奏することが、死について考えるというだけではなくって、死について考える、ゆえに生きることについて考える、みたいな感じになれたら良いですね(笑)。

本田:これまでの100年にこの曲を捧げて、これからの新しい100年を祈ることができる機会にしたいですね。

間庭:『レクイエム』は「死者が天国で永遠の安息を得られますように」というお祈りの曲ですが、そこには過去に生きた人々とレクイエムを演奏する人々の時間が感じられます。そういった意味では、100周年とも通じるものがあるかもしれませんね。

岡本:なるほど、興味深いですね。宗教音楽について語ってもらうのって、かなり難しい部分もあると思うんですけれど、最終的にはこの音楽を聴く人、演奏する人で、それぞれの解釈をもって、更には今回の二人の話を読んでいただいた上で、色々なことを考えながら聴いていただきたいですね。

それでは、二人とも、本日はとても貴重な話を聞かせてくれて、ありがとうございました!

※1 2021年11月20日開催 学習院輔仁会音楽部 第65回定期演奏会 メイン曲 ベートーヴェン作曲 交響曲第9番 ニ短調 作品125 『合唱付き』

※2 2022年5月29日開催 創部100周年記念 学習院輔仁会音楽部管弦楽団 第61回定期演奏会 メイン曲 サン=サーンス作曲 交響曲第3番『オルガン付き』


創部100周年記念 第66回定期演奏会
2022年11月6日(日)13:30開演。東京芸術劇場コンサートホール。指揮:三石精一。ソロ:石田滉、黒田祐貴。デュリュフレ/「レクイエム」Op. 9ほか。The 100th Anniversary: 66th Regular Concert of Gakushuin Music Society.

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