創部100周年記念 第66回定期演奏会曲目解説

ブログ 2022年10月29日

スペイン狂詩曲/E. シャブリエ

『スペイン狂詩曲』はフランス近代音楽の先駆者であるエマニュエル・シャブリエによって作曲された管弦楽曲である。シャブリエは父の勧めのもと法学を専攻し、20年近く官​吏を務めたのち、残りの人生を音楽に捧げた。彼の音楽人生において一番成功した作品とも言える本曲はその名の通り、スペインへ渡航した際に得た多くの影響から作られたとされている。曲全体を通して弦楽器と管楽器が織りなすビロードのようなメロディーと、打楽器が彩るアンダルシア地方に伝わる軽快なダンスのビートはまるで、陽気で情熱的なスペインという国を表現しているようだ。この曲は3/8拍子で作曲されているが、中盤においてはヘミオラという2拍子に聞こえるユニークなリズムが特徴である。曲の長さは7分程度だが、冒頭から終盤までテンポ良く賑やかな曲調と共に音楽が展開されてゆく為、時の流れの速さを感じられるような作品である。

作曲年代 1883年
初演 1883年11月 シャルル・ラムルー指揮

楽器編成

フルート2、ピッコロ、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット4、ホルン4、トランペット2、コルネット2、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、タンブリン、トライアングル、シンバル、大太鼓、ハープ2、弦​五部​

参考文献

ジョン・バロウズ/芳野靖夫監修『クラシック作曲家大全—より深く楽しむために—』日東書院、2013年
小泉文夫/柘殖元一監修『民族音楽の世界』日本放送出版協会、1985年

ローマの松/O. レスピーギ

『ローマの松』は『ローマの噴水』『ローマの祭り』と共に知られるローマ三部作の一つであり、イタリア出身のオットリーノ・レスピーギによって作曲された交響詩である。交響詩とは表題的な特徴を持つ、単一楽章の交響的な作品のことを指し、音詩(トーン・ポエム)と呼ばれることもある。本作品は非常に強力な国力を保持し、発展したローマ帝国を地中海沿岸地域に広く生息する笠松と重ねて表現している。オーケストレーションにおいては、多様な打楽器、チェレスタ、そして何よりバンダと呼ばれる大編成の金管楽器が特徴である。一般的なオーケストラの演奏はステージ上でなされるが、前述したバンダは客席で演奏し、ホール全体が煌びやかな音と共に飾られる。

第一曲「ボルゲーゼ荘の松」

曲の題となっているボルゲーゼ荘とは貴族の邸宅としてかつて使用されていた、ローマの中心に位置する風光明媚な別荘のことを指す。第一曲では芝の上で玩具のラッパと兵隊ごっこをして遊んでいる子供たちが表現されている。賑やかに戯れる子供たちの表現技法として冒頭で展開される管楽器の旋律には、ローマに古くから伝わる童歌 “Madama Dorè”と“Giro Giro Tondo”が使用されている。

第二曲「カタコンベ付近の松」

カタコンベとは迫害を受けたキリスト教徒が祈りの場として使用していた地下墓地のことを指す。冒頭の弦楽器の旋律は、地下の洞窟から聞こえてくる死者の声を表現しており、厳かな雰囲気と神秘的な世界観が繰り広げられる。中盤で展開されているトランペットのソロはグレゴリオ聖歌「サンクトゥス」の響きであり、地下墓地から天高く届くような非常に高貴な旋律は、生と死について考えさせられるような音楽である。中盤より念仏のように繰り返されるテーマはキリスト教徒の苦悩を、そして徐々に楽器が増えると共に音型が上がる旋律には、彼らへ祈りを届けようとする気持ちが窺える。西洋社会におけるキリスト教が持つ多大な影響力を、音楽を通して強く訴えかけているのではないだろうか。

第三曲「ジャニコロ丘の松」

この曲はピアノのアルペジオから始まり、クラリネットの非常に美しいソロが曲全体を通して演奏される。本作には満月の夜に松の木に佇む夜鳴き鶯「ナイチンゲール」の鳴き声が情景として描かれており、夜風に揺られた松の動きを弦楽器が表現している。終盤においては、ナイチンゲールの鳴き声がホールに響き渡る。その様子はまるで静かな夜に一羽、木に佇みながら広大なローマ帝国を俯瞰しているかのようだ。

第四曲「アッピア街道の松」

アッピア街道とは古代ローマ軍によって作られた、ローマ以南に約560kmに及ぶ進軍道路のことを指し、現存する街道の中で最も有名なものとされている。曲冒頭においては低弦楽器が規則良いテンポで軍隊の行進を表し、その他の楽器で不協和音な音楽と共に霧の中で敵か味方か不明な軍が近づくことによる不安に苛まれている人民の心情を表現している。ヴァイオリンのpppで展開される部分では、悲哀の念に満ちた奴隷の悲痛な声が響く。霧が晴れてくると共に進軍してきた軍隊は、曲が展開されるにつれ帰還した自国のローマ軍であることが判明し、凱旋パレードへと繋がる。バンダが加わるフィナーレにおいては、輝かしい栄光の時代を送ったローマ帝国が目に見えるようであり、非常に華やかなオーケストレーションと共に幕を下ろす。

作曲年代 1924年
初演 1924年12月 ベルナルディーノ・モリナーリ指揮

楽器編成

フルート3、オーボエ2、コールアングレ、クラリネット2、バスクラリネット、ファゴット2、コントラファゴット1、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、トライアングル、タンブリン、ラチェット、シンバル、小シンバル、大太鼓、銅鑼、グロッケンシュピール、水笛、バードコール、ブッキーナ6、ハープ、チェレスタ、ピアノ、オルガン、弦五部

参考文献

ジョン・バロウズ/芳野靖夫監修『クラシック作曲家大全—より深く楽しむために—』日東書院、2013年
三谷陽子『諸民族の音楽』慶應通信、1986年
前田知加子『曲目解説プログラムノート』新交響楽団、2005年1月演奏会
大高利夫『20世紀西洋人名事典』日外アソシエーツ、1995年

文責:コンサートミストレス
ヴァイオリン3年 東本響

M. デュリュフレ「レクイエム」Op. 9

あなたにとって死とは何か。

誕生したものは誰しも死へ向かって生きている。

死は、人間としての人生の幕を下ろすものである宗教の原点こそ、死であると考えることもできる。死との向き合い方は多様であるが、人々はみな死者に祈りをささげているのではなかろうか。

「レクイエム」とは、死者の霊を慰めるために捧げるミサ曲である。
「レクイエム」の呼称は、「死者のためのミサ」“Missa pro defunctis’’ の冒頭

Requiem aeternam dona eis, Domine : et lux perpetua luceat eis.
「主よ、彼らに永遠の安息を与え、彼らをたえざる光もて照らし給え」

に由来する。
「レクイエム」は元来カトリックの典礼音楽であったが、次第に典礼の域を越え、現代においてはカトリックと無縁な曲が作られているのだ。あらゆる宗教を越え、「レクイエム」を作曲する者は死と向き合い対話をし続けている。

本作品は、1974年に楽譜出版社デュランからの依頼で作曲者が当時構想していたオルガン・ミサ曲を発展させ、「レクイエム」の作曲へ着手したことから始まった。

作曲者のモーリス・デュリュフレは1902年1月11日にノルマンディー地方のルーヴェに生まれ、パリ音楽院でデュカス、ヴィエルヌ、トュルヌミールに師事した。オルガン、和声学、伴奏法、フーガ、作曲の各部門で次々に優秀な成績を修め、卒業後はフランスの代表的なオルガン奏者兼作曲者として活躍した。

オルガニストとしては、パリ音楽院の和声学教授になり、オルガニストとして欧米各地に演奏旅行を行った。

作曲者としては、26歳の時に作曲したオルガン曲「スケルツォ」が初期作品の中で最も注目すべき作品であるといえるのではないか。そして、デュカスにならい合唱を主体とした宗教音楽の制作が最も大きな彼の作曲家人生を物語る。「レクイエム」はデュリュフレの残した曲の中で最も名高く、後世に残され、宗教音楽作曲家としての地位を確立したといえるのではないだろうか。

この曲の特徴としては、しばしばフォーレ「レクイエム」との類似性が指摘されている。

フォーレ「レクイエム」は、カトリック教会の典礼の一つである「死者のためのミサ」中、一般に作曲される「怒りの日」をあえて作曲せず、赦祷(しゃとう)式の際に歌われる曲を含めるなど、独自の構成がとられている。デュリュフレも構成を踏襲しており、「怒りの日」を含めず、「リベラ・メ」「イン・パラディスム」を付け加えた。しかし、曲の構成でフォーレの「レクイエム」を念頭に置いた上でフォーレが2曲を1曲にまとめたものを個別の曲に独立させるなど、独自の形を新たに生み出したのだ。各曲ごとの編成・書法においても、デュリュフレがフォーレの「レクイエム」をモデルにしたと考えられる箇所が多くあると言われる。しかし、相違点として「グレゴリオ聖歌」を直接定旋律として用いている点が挙げられる。「入祭唱」「キリエ」「サンクトゥス」「イン・パラディスム」では「グレゴリオ聖歌」がほぼ元の旋律のまま引用されているのだ。さらに、フォーレではffが遠ざけられていたのに対し、デュリュフレはppからffまでのダイナミクスを大幅につけ、ドラマティックな「レクイエム」を作り出したのである。

I. Introït

男声のグレゴリオ聖歌に女声のユニゾンが加わる形で始まる。3部の形式に分かれる。

Ⅱ.Kyrie

第一曲目に続けて歌うよう指示されていて、バスとテノールから歌い始められる。グレゴリオ聖歌の旋律形を利用したカノン風の合唱。

Ⅲ. Domine Jesu Christe

不協和音を伴う前奏ではじまる。中間部は一転して今までにない激しい音楽に変わるが、この楽章には戦争体験が反映されていると考えられている。

Ⅳ.Sanctus

フォーレのレクイエムを思わせる、美しいアルペジオの伴奏。「いと高き天にホザンナ Hosanna in excelsis」の言葉で頂点を築き、「ベネディクトゥス」へつづく。

Ⅴ.Pie Jesu

メゾソプラノのソロとチェロのオブリガードが特徴的。混声合唱は登場しない曲である。つつましやかな旋律により死者の安息を主イエズスに願う。

Ⅵ. Agnus Dei

アルトの歌うグレゴリオ聖歌で始まる。伴奏がとりわけ美しい。最後にppで「永遠の安息を与え給え」と歌いながら静かに余韻を残すように終わる。

Ⅶ.Lux aeterna

グレゴリオ聖歌がそのまま使われている。短い前奏ののち、ソプラノ合唱が、合唱の他の声部のハミングに支えられて歌い始める。

Ⅷ.Libera me

バスから始まり、順次四部合唱に拡大され強い叫びにちかい祈りになる。「私は震えおののく Tremens factus sum ego…」からバリトン独唱が登場。後半は劇的な盛り上がりを見せる。管楽器の強奏も注目するポイントである。

Ⅸ.In Paradisum

この音楽は元来、死者の柩が墓所へ運ばれる際の行列で歌われるものである。

ハープの透明な響きの中、浮き上がるようなハーモニーに乗って、グレゴリオ聖歌の美しい旋律がソプラノで歌われる。やがて合唱の他の声部がしめやかに加わり、最後は第七声部となって曲を閉じる。

作曲年代 1947年
初演 1947年11月 ロジェ・デゾルミエール指揮

楽器編成

フルート3(3番はピッコロ持ち替え)、オーボエ2(2番はコーラングレ持ち替え)、コーラングレ、クラリネット2、バスクラリネット、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ、大太鼓、シンバル、サスペンドシンバル、タムタム、オルガン、ハープ、チェレスタ、弦五部、混声合唱、メゾソプラノ・ソロ、バリトン・ソロ

参考文献

井上太郎『レクイエムの歴史』平凡社、1999年
美山良夫『最新名曲解説全集 第24巻』音楽之友社、1981年

文責:楽事委員長
トロンボーン3年 本田千遥

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